内視鏡治療に関連した臨床研究・新規技術開発
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胃ESD後2nd-look内視鏡に関する多施設前向きランダム化比較試験

2006年に早期胃癌に対する内視鏡治療として内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) が保険適応となりました。以来、ESDは全国に瞬く間に普及し、現在では胃だけでも年間4万件以上が行われていると言われています。胃ESDの偶発症として創部からの術後出血が約5%の頻度で生じることから、それを予防するため、術後数日以内に再度内視鏡検査(2nd-look内視鏡)を行い、創部の血管から出血がないかどうか確認し、出血があれば止血処置をすることが、広く行われていました。

当院では2010年に454例の胃ESD患者のデータを解析し、2nd-look内視鏡が術後出血予防にほとんど効果がない可能性を報告しました。これを検証するために、2012年2月から2013年2月まで、当院が中心となり、他の全国4施設(いずれもESD先進施設)の参加を得て、前向きランダム化比較試験(非劣性試験)を行いました。試験対象は、抗血栓薬投与例など術後出血リスクの高いとされる症例を除いた胃ESD施行症例としています。結果として、2nd-look内視鏡施行した130例中7例(5.4%)、2nd-look内視鏡施行しなかった132例中5例(3.8%)に術後出血を認め(リスク差 -1.6% [95%CI: -6.7-3.5]; 非劣性P値=0.0003)、むしろ2nd-look内視鏡施行した方が術後出血は高い傾向にありました。

本研究の結果から、胃ESD術後の2nd-look内視鏡は原則不要といえます。この結果を踏まえて、当院では胃を含めたESD術後偶発症のさらなる低減を目指した臨床研究を続けております。

【文献】
Scheduled second-look endoscopy is not recommended after endoscopic submucosal dissection for gastric neoplasms (the SAFE trial): a multicentre prospective randomised controlled non-inferiority trial
Mochizuki S, Uedo N, Oda I, Kaneko K, Yamamoto Y, Yamashina T, Suzuki H, Kodashima S, Yano T, Yamamichi N, Goto O, Shimamoto T, Fujishiro M, Koike K
Gut. 2015;64(3):397-405. 
(望月暁、藤城光弘)

新しい低侵襲治療「非穿孔式内視鏡的胃壁内反切除術(NEWS)」の開発と応用

NEWSは、内視鏡治療を専門とする消化器内科および光学医療診療部と、腹腔鏡手術を手がける胃食道外科との共同研究によって考案された、当院発の画期的な胃局所切除術です。ブタ切除胃を用いた机上実験 (Goto O, et al. New method of endoscopic full-thickness resection: a pilot study of non-exposed endoscopic wall-inversion surgery in an ex vivo porcine model.Gastric Cancer 14: 183-7, 2011)および生体ブタを用いた動物実験(Mitsui T, et al. Novel technique for full-thickness resection of gastric malignancy: feasibility of nonexposed endoscopic wall-inversion surgery (news) in porcine models. Surg Laparosc Endosc Percutan Tech 23: e217-221, 2013.)で、本術式が安全かつ技術的に可能であることを実証され、現在、臨床応用(Mitsui T, et al. Non-exposed endoscopic wall-inversion surgery as a novel partial gastrectomy technique. Gastric Cancer 17: 594-599, 2014.)されています。必要最小限の切除範囲で病変を良好な視野の下に切除することが可能で、かつ清潔手術を完遂することが可能であり、現在、主に胃粘膜下腫瘍に対して行っていますが、早期胃癌へ適応を広げていく予定です。
 

(詳細は、消化管グループの臨床 NEWSをご覧ください。)

 

(新美惠子、藤城光弘、胃食道外科)

胃ESD後出血に対するポリグリコール酸シート・フィブリン糊併用被覆法の予防効果の検証

胃ESDは、早期胃癌に対する低侵襲かつ根治的な治療としての地位を確立してきましたが、胃ESD後には5%程度で後出血(ESDで癌を剥がしとった後の傷口から出血してしまうこと)が起こることが知られています。後出血は、吐血や下血といった症状で発症します。基本的には内視鏡下で露出血管を焼灼したりして止血を得られる事が多いですが、大量出血から重篤な状態に陥ることもありますので出来れば避けたい偶発症です。しかしながらこの予防法としては、胃酸を抑制するプロトンポンプ阻害剤(proton pump inhibitor: PPI)をしっかり服用すること、ESD後に潰瘍底に見える露出血管をあらかじめ凝固しておくこと(post-ESD coagulation: PEC)以外に有効性の実証されたものはありません。

近年、ESD後の潰瘍底にポリグリコール酸(polyglycolic acid: PGA)シートとフィブリン糊を用いて保護を行う方法が報告されました。我々はこの手法により胃ESD後出血を減らすことができるのではないかと着目し、研究を進めております。また、PGAシート・フィブリン糊の胃への展開方法についても改良を続けております。わらに多施設ランダム化研究「胃上皮性腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後出血に対するポリグリコール酸シート・フィブリン糊併用被覆法の予防効果に関する前向きランダム化比較試験(UMIN000015091)」を実施し、本研究の成果をEndoscopy誌に発表しております。

【文献】
Polyglycolic acid sheets and fibrin glue decrease the risk of bleeding after endoscopic submucosal dissection of gastric neoplasms (with video)
Tsuji Y, Fujishiro M, Kodashima S, Ono S, Niimi K, Mochizuki S, Asada-Hirayama I, Matsuda R, Minsatsuki C, Nakayama C, Takahashi Y, Sakaguchi Y, Yamamichi N, Koike K.
Gastrointest Endosc.  2015;81(4):906-12. 

Endoscopic tissue shielding to prevent bleeding after endoscopic submucosal dissection: a prospective multicenter randomized controlled trial.
Kataoka Y, Tsuji Y, Hirasawa K, Takimoto K, Wada T, Mochizuki S, Ohata K, Sakaguchi Y, Niimi K, Ono S, Kodashima S, Yamamichi N, Fujishiro M, Koike K.
Endoscopy. 2019 Mar 12. doi: 10.1055
(片岡陽佑、辻陽介)
ESD後出血を起こし、緊急内視鏡を行った際の画像。
ESD後の潰瘍底を、PGAシート・フィブリン糊により被覆したところ。

食道ESD後狭窄に対するポリグリコール酸シート被覆による予防効果の検証

食道ESDでは、大きな早期癌を剥離した後に「術後狭窄」が起こることがあります。具体的には、食道の3/4周以上の広範囲を剥離すると高率に狭窄が起こると言われています。狭窄が起こると食べ物が通過できなくなるため、頻回に内視鏡下でのバルーン拡張術を行う事を余儀なくされ、患者さんにも大きな苦痛を強いる事になります。ステロイドの使用が術後狭窄の予防に効果がある事が報告されており、臨床現場でも使用されておりますがステロイドによって引き起こされる偶発症(感染、穿孔など)もあり、さらに安全な狭窄予防法を探求すべきと考えられます。

我々は、PGAシートとフィブリン糊を用いた被覆法が、口腔外科領域において手術後創の拘縮予防につながると報告されている点に着目し、広範囲の食道ESD後に本被覆法を用いることで狭窄予防ができるか、検討を続けております。また、狭窄予防機序の解明に向け、生体ブタを用いた検証を麻布大学との共同研究にて行っております。

【文献】

Polyglycolic acid sheets with fibrin glue can prevent esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection.
Sakaguchi Y, Tsuji Y, Ono S, Saito I, Kataoka Y, Takahashi Y, Nakayama C, Shichijo S, Matsuda R, Minatsuki C, Asada-Hirayama I, Niimi K, Kodashima S, Yamamichi N, Fujishiro M, Koike K
Endoscopy 2015;47(4):336-40.

Foam plombage: a novel technique for optimal fixation of polyglycolic acid sheets positioned using "clip and pull" after esophageal endoscopic submucosal dissection.
Ono S, Sakaguchi Y, Tsuji Y, Kodashima S, Yamamichi N, Fujishiro M, Koike K.
Endoscopy. 2015;47 Suppl 1 UCTN:E435-6.


Preventing esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection: steroid injection and shielding with polyglycolic acid sheets and fibrin glue.
Kataoka Y, Tsuji Y, Sakaguchi Y, Kodashima S, Yamamichi N, Fujishiro M, Koike K.
Endoscopy. 2015;47 Suppl 1 UCTN:E473-4.


Triamcinolone Injection and Shielding with Polyglycolic Acid Sheets and Fibrin Glue for Postoperative Stricture Prevention after Esophageal Endoscopic Resection: A Pilot Study.
Sakaguchi Y, Tsuji Y, Fujishiro M, Kataoka Y, Takeuchi C, Yakabi S, Saito I, Shichijo S, Minatsuki C, Asada-Hirayama I, Yamaguchi D, Niimi K, Ono S, Kodashima S, Yamamichi N, Koike K.
Am J Gastroenterol. 2016;111(4):581-3.

Steroid injection and polyglycolic acid shielding as a prevention against stricture after esophageal endoscopic submucosal dissection: a retrospective comparative analysis.

Sakaguchi Y, Tsuji Y, Shinozaki T, Ohki D, Mizutani H, Minatsuki C, Niimi K, Yamamichi N, Koike K.
Gastrointest Endosc. 2020 May 3:S0016-5107(20)34270-X. doi: 10.1016/j.gie.2020.04.070. Online ahead of print.

坂口賀基、辻陽介)
広範囲にわたる食道ESD後の創の様子。
PGAシートをデリバリーした後。
2ヶ月後、ほぼ狭窄なく治癒している。

Epstein-Barrウイルス関連胃癌(EBV関連胃癌) のリンパ節転移危険因子に関する 多施設共

胃癌の中には、Epstein-Barrウイルス(EBV)が関わっているとされるものが10%弱あると言われており、それらは通常の胃癌に比べてリンパ節転移リスクが低いと言われています。すると、今までは手術が必要とされていたEBV関連胃癌の中にも、リンパ節転移リスクが低いので手術の必要性が低いものがあるのではないかと推察されます。そのようなグループが判明すれば、それらについては不要な手術を減らすことができ、より侵襲の低い内視鏡治療で治療を完結できるようになり意義があると考えられます。

本研究では、Epstein-Barrウイルス関連胃癌(EBV関連胃癌)に対する内視鏡的切除を含めた局所切除の妥当性、またはリンパ節郭清伴う胃切除の必要性を明らかにしようとしました。

【結果】全国5施設から185例の粘膜下層浸潤EBV関連胃癌症例が集積されました。検討の結果、リンパ管侵襲・粘膜下層4000μm以上の浸潤がリンパ節転移と関連していました。また、今回の検討範囲においては、粘膜下層2000μm未満の浸潤かつリンパ管侵襲陰性であれば、リンパ節転移は認められませんでした。

本研究では症例数に限界があり、また全てのEBV関連胃癌症例を拾い上げられていない限界はあるものの、既報に比べても多くのEBV関連胃癌を集積し、内視鏡治療適応拡大の可能性が示唆された点で意義があると考えております。

共同研究にご協力を賜りました国立がんセンター中央病院・福井県立病院・山口大学・岩手医科大学の先生方をはじめ、ご協力いただいた全ての先生方に感謝申し上げます。

(辻陽介)

Risk for lymph node metastasis in Epstein-Barr virus-associated gastric carcinoma with submucosal invasion
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