406研(旧108研):疫学研究
HOME > 基礎・疫学研究の紹介 > 406研(旧108研):疫学研究

消化管病変の疫学解析

◆ ピロリ菌抗体価・ペプシノゲン法による胃癌高危険度群絞り込みの検証 (小田島、山道)

◆ 逆流性食道炎・非びらん性胃食道逆流症(NERD)の背景因子の探索 (皆月)

◆ 上部消化管環境と大腸腺腫の関連の横断的解析・前向き解析 (坂口)

◆ 上部消化管内視鏡検査・上部消化管造影検査とピロリ菌抗体価・ペプシノゲン法による背景胃炎評価と、様々な胃ポリープ様病変発症との関連の解析 (竹内)

◆ 我が国の大腸憩室症の疫学的動向と危険因子の解析 (山道)

◆ コーヒー摂取が上部消化管疾患の発症に及ぼす影響の疫学解析 (島本)

◆ 様々な消化器症状と関連する生活背景因子の探索的疫学解析 (山道)

消化管以外の病変の疫学解析

◆ ピロリ菌感染に伴う上部消化管環境が胆石発症に及ぼす影響の解析 (高橋)

◆ 大規模健常者集団における脂肪肝危険因子の探索 (肝グループ医師、高橋)

◆ 健常成人2万人における胆管径と背景因子の多変量解析 (胆膵グループ医師、山道)

ヘリコバクター・ピロリ菌持続感染の全身への影響の解明

東京大学消化器内科と亀田総合病院附属幕張クリニックの共同研究として、2010年に人間ドック受診者約21000人の研究同意を得て行っている臨床研究です(東京大学倫理委員会 審査番号2865)。
 
研究参加同意者に対して、「① ピロリ菌抗体価の測定、② 血清ペプシノゲン値(PG I/PG II)の測定、③ アンケートによる常用薬の調査、④ 上部消化管内視鏡検査・上部消化管造影検査での萎縮性胃炎・肥厚性胃炎の所見」の4項目を基本情報として取得し、これに加えて、人間ドックの全項目を、連結可能匿名化処理をした上でデータベースとして登録し、様々な横断研究・前向き観察研究を行なっています。また、将来的に解析結果を更に検証することが必要となる可能性になる場合に備えて、被検者の同意を得られた場合に限り、残血清を冷凍保存しています。このデータベースの解析から、以下のように様々な貴重な解析結果が得られており、今後も特に前向き観察研究の観点から、データのフォローを行なってゆきます。
 
(山道信毅)

逆流性食道炎(RE)・非びらん性胃食道逆流症(NERD)の背景因子の探索

GERDは、内視鏡的逆流性食道炎(RE)と非びらん性胃食道逆流症(NERD)に大別されますが、その背景因子の解明は十分にされていません。特にNERDに関しては、我が国も含めて、データが乏しいのが現状です。そこで、我々は人間ドックを受診した大規模な健常者のデータを用いて、内視鏡検査で食道炎所見を呈するRE群、食道炎所見がなく「胸焼けまたは胃酸逆流症状」を認めるNERD群、いずれにも属さない健常群の3群に分別し、年齢・性別・ピロリ菌抗体価・血清ペプシノゲン値・body mass index(BMI)・喫煙・飲酒との相関について解析を行ないました。

全10,837人のうち、RE群は1,320人(12.2%、Grade Mの軽症逆流性食道炎も含む)、NERD群は1,550人(14.3%)で、両疾患をあわせたGERDは25%以上を占めていることが分かりました(図1)。単変量解析(χ2乗検定、p<0.05)では、年齢・性別・ピロリ菌感染・ペプシノゲンI/II比・BMI・飲酒・喫煙がREと有意な相関を示し、NERDでは年齢・性別・喫煙で有意な相関が示しました。

多変量解析(多重ロジスティック回帰分析、p<0.05)を行なうと、RE・NERDの有意な相関因子は、右の表のようになりました。REとNERDの年齢・性別・ピロリ菌感染との相関は逆向きであり、両病態が大きく異なることが示唆されました。また、NERDはREに比べて各因子の影響が小さく、NERDの背景因子は十分に解明されていないことが示唆されました。
 
我々の報告は、国内におけるGERD(RE、NERD)の報告として最も大きなものの1つですが、GERDの病態に該当する方がざっと見積もって我が国の成人健常者の1/4以上であることは、この疾患の対応が非常に重要であることを端的に表していると思います。現在もデータは前向きな観察を継続しており、今後、ピロリ菌除菌の影響やRE患者・NERD患者の経年的な病態変化の動向に、注目して解析を続けています。

(皆月ちひろ、山道信毅)

【文献】 
Background factors of reflux esophagitis and non-erosive reflux disease: a cross-sectional study of 10,837 subjects in Japan.

Minatsuki C, Yamamichi N, Shimamoto T, et al.  PLoS One. 2013 Jul 26;8(7):e69891. 
 
【図1】 逆流性食道炎・非びらん性胃食道逆流症の疫学研究のデザイン
【表1】 逆流性食道炎 RE と背景因子の関連(多変量解析)
【表2】 非びらん性胃食道逆流症 NERD と背景因子の関連(多変量解析)

ピロリ菌感染に伴う上部消化管環境が胆石発症に及ぼす影響の解析

ヘリコバクター・ピロリ菌は保菌率が下がってきたとはいえ、まだ、我が国で40%以上が慢性持続感染していると想定されている非常に重要な病原菌です。我々はピロリ菌の持続感染が、これまで知られていた消化性潰瘍・慢性胃炎・胃癌への影響のみではなく、様々な全身疾患へと影響する可能性を追究しており、今回、その1つとして、胆石発症への影響を解析しました。

大規模人間ドックの2010年度受診者で研究参加同意を得られた20,773人のうち、導入基準を満たした15,551人(男性8,625人、女性6,926人、平均48.8±9.1歳)を対象(図1)に、年齢・身長・体重・Body Mass Index(BMI)・喫煙・飲酒の基本因子に加えて、血清ピロリ抗体価・血清ペプシノゲン値(PG I、PG II)を含む19の採血検査結果を加えた25項目について、腹部超音波検査による胆石有無の判定との相関を解析しました。

二変量解析(Wilcoxon解析またはχ2乗検定、p<0.05)では、年齢・体重・BMI・ピロリ抗体価・飲酒・AST・ALT・ALP・γ-GTP・T-Chol・HDL・LDL・TG・TP・HbA1c・Hb・PG I・PG II・PG I/II比が胆石の有無と有意に相関し、性別・身長・T-Bil・Alb・MCV・喫煙では有意な相関を認めませんでした。この結果をもとに、多重共線性に影響を及ぼす背景因子を除いた17因子についてロジスティック回帰分析による多変量解析(p<0.05)を行なうと、年齢・性別・BMI・γ-GTP・ピロリ抗体価・飲酒が、胆石に有意に相関する背景因子でした。さらにステップワイズ法を用いて背景因子を絞り込み、標準化回帰係数から胆石との相関を解析すると、高齢・BMI高値・ピロリ抗体高値・非飲酒・γ-GTP高値の順に、強い相関が認められました(図2)。

15,551人の大規模コホートを用いた横断解析の結果から、高齢・BMI高値・ピロリ感染・非飲酒・高γ-GTPが有意な胆石発生の背景因子として同定され、ヘリコバクター・ピロリの持続感染が胆石形成促進に働くことが強く示唆されました。実際に図3のようにピロリ菌の感染状態により分類した3群を比較解析すると、ピロリ菌慢性持続感染者、ピロリ菌除菌成功者、ピロリ菌非感染者の順に胆石の有病率が高く、ピロリ菌感染と胆石形成の関連を強く示唆する結果が得られています。現在は、横断解析による結果を踏まえ、前向き観察研究を継続しており、近い将来、この結果をより詳細に検証する予定を考えています。

(高橋悠、山道信毅)


【文献】
Helicobacter pylori infection is positively associated with gallstones: a large-scale cross-sectional study in Japan.
Takahashi Y, Yamamichi N, Shimamoto T, et al.  
J Gastroenterol. 2014 May;49(5):882-9.
 
第28回日本消化器病学会奨励賞授賞論文◆
【図1】 研究のデザイン
【図2】 胆石と背景因子の多変量解析
【図3】 胆石に対する除菌治療の可能性

コーヒー摂取が上部消化管疾患の発症に及ぼす影響の疫学解析

コーヒーを摂取すると、含有するカフェインなどによって胃酸分泌が上昇し、消化性潰瘍のリスクを高めると、以前より言われてきました。胃酸分泌亢進効果は確かであるとされる一方で、消化性潰瘍の影響は様々な報告があり、意見の一致がありません。そこで我々は、上部消化管良性疾患のうち、4つの主要な酸関連疾患(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症)に対するコーヒー摂取の影響を検討することにしました。

9,517 人の健常者成人コホートにおいて、4つの酸関連上部消化管疾患を目的変数とし、コーヒー摂取量・年齢・性別・Body Mass Index (BMI)・ペプシノゲンI/II比(慢性萎縮性胃炎の指標)・喫煙・飲酒・ピロリ菌感染(抗体価)を説明変数として、多変量解析を行いました。

4 つの酸関連上部消化管疾患と有意に相関する背景因子は、胃潰瘍ではピロリ菌感染(Standardized Coefficient(SC) 0.746; Odds Ratio(OR) 18.55)、喫煙者(SC 0.275; OR 3.57)、BMI(SC 0.253; OR 1.15)、ペプシノゲンI/II比高値(SC 0.248; OR 1.24)となりました。十二指腸潰瘍ではピロリ菌感染(SC 0.924; OR 37.23)、ペプシノゲンI/II比高値(SC 0.420; OR 1.45)、喫煙者(SC 0.184; OR 2.35)となった。逆流性食道炎では、ピロリ菌非感染(SC -0.482; OR 0.35)、男性(SC 0.426; OR 2.37)、高BMI(SC 0.399; OR 1.13)、ペプシノゲンI/II比高値(SC 0.220; OR 0.35)、高齢者(SC 0.159; OR 1.02)、喫煙者(SC 0.214; OR 1.62)、飲酒(SC 0.143; OR 1.34)、過去喫煙者(SC 0.109; OR 1.24)となりました。NERDでは若年者(SC -0.154; OR 0.98)、喫煙者(SC 0.139; OR 1.36)、女性(SC -0.125; OR 0.78)、過去喫煙者(SC 0.086; OR 1.19)、BMI高値(SC 0.073; OR 1.02)となりました。結果、コーヒー摂取と4つの酸関連上部消化管疾患との間に有意な関係はみられませんでした。

さらに、我々は胃潰瘍と十二指腸潰瘍において、過去の研究論文10編を収集し、我々の今回の結果を含めたメタ解析を行いました。胃潰瘍における統合オッズ比は0.88(95%CI:0.49-1.60)、十二指腸潰瘍における統合オッズ比は01.17(95%CI:0.79-1.73)、胃・十二指腸潰瘍を併せた消化性潰瘍においては0.99(95%CI:0.75-1.32)となり有意な関係はみられませんでした。

さらなる前向き観察研究での検証が必要ですが、現在の解析結果から、上部消化管の酸関連4大良性疾患へのコーヒー摂取の影響はほぼないと考えられました。

(島本武嗣)

【文献】
No association of coffee consumption with gastric ulcer, duodenal ulcer, reflux esophagitis, and non-erosive reflux disease: a cross-sectional study of 8,013 healthy subjects in Japan.
Shimamoto T, Yamamichi N, Kodashima S, et al. 
Plos ONE 2013;8:e65996.
 

大規模健常者集団における脂肪肝危険因子の探索

NALFDを含む脂肪性肝疾患(FLD)はメタボリックシンドロームの肝臓における表現型であり、近年世界中で急増し本邦でも肝疾患に占める割合は大きくなっています。一方、Helicobacter pylori感染は様々な疾患を引き起こす重要な上部消化管環境規定因子であり、メタボリックシンドロームを含む全身の代謝性疾患との関連も指摘されています。そこでFLDやNAFLDの背景因子についてHelicobacter pylori感染およびメタボリックシンドローム関連因子を中心に、多数例の人間ドック受診者の結果を基に解析しました。

2010年の単一施設人間ドック受診者を対象に、腹部超音波検査で診断した脂肪肝との相関について、年齢、身長、体重、BMI、腹囲、最高・最低血圧、飲酒頻度、喫煙習慣、抗Helicobacter pylori抗体の有無、各種血液検査項目について男女別にWelch’s t testまたはWilcoxon’s rank-sum testにより単変量解析し、さらに多重共線性などを考慮して因子を絞り、弾性ネットを用いた正則化ロジスティック回帰分析で多変量解析を行いました。

総解析対象13,737人(女性6,318人、男性7,419人)のうち、脂肪肝(FLD)は女性1,456人(23.0%)、男性3,498人(47.1%)で認めました。単変量解析で有意差を認めた項目を中心に多変量解析を行ったところ、男女ともに脂肪肝と有意な相関を認めたものは、BMI (standardized coefficients of females and males (β-F/M) = 143.5/102.5)、ALT値 (β-F/M = 25.8/75.7)、年齢(β-F/M = 34.3/17.2)、血小板数 (β-F/M = 17.8/15.2) の4因子でした (表1)。次に飲酒の影響を受けていない5,289人(女性3,474人、男性1,816人)を調べたところ、脂肪肝=NAFLDは女性881人(25.4%)、男性921人(50.7%)に認めました。同様に多変量解析を行ったところ、BMI (β-F/M = 113.3/55.3)、ALT値 (β-F/M = 21.6/53.8)、そして血小板数 (β-F/M = 13.8/11.8)が男女ともにNAFLDと有意な相関を認めました (表2)。メタボリックシンドロームは、女性でのみFLDやNAFLDに有意な相関を認めました。しかし、Helicobacter pylori感染は男女ともにFLDやNAFLDと相関を認めませんでした。

大規模健常者コホートを用いた今回の解析からはBMIとALT値、血小板数についてFLDやNALFDとの相関が示されました。一方で、Helicobacter pylori感染は男女ともにFLDやNAFLDとの有意な相関が示されませんでした。Helicobacter pylori感染とメタボリックシンドロームとの関連がcontroversialながらも指摘される中で、横断解析ではありますが大規模集団から得られた「関係を認めない」という今回の結果は意義深いものと考えます。今後は、このcohortを前向きに検討し、脂肪性肝疾患、特にNASHやそこからの発がんの危険因子を探索してゆく予定です。
 
(奥新和也、高橋悠)

【文献】
Helicobacter pylori infection is not associated with fatty liver disease including non-alcoholic fatty liver disease: a large-scale cross-sectional study in Japan
Okushin K, Takahashi Y, Yamamichi N, et al.  
BMC Gastroenterology 2015, 15:25
 
【表1】13,737人の健常者(女性6,318人、男性7,419人)における、脂肪肝(FLD)と選択された9背景因子との多変量解析
【表2】5,289人の飲酒の影響のない健常者(女性3473人、男性1816人)における、NAFLDと選択された7背景因子との多変量解析

我が国の無症候性大腸憩室の疫学的動向と危険因子の解析

無症候性の大腸憩室は増加し続けていると考えられていますが、その正確なデータは乏しく、危険因子の解明も依然として不十分です。そこで人間ドックを受診した大規模健常者データを用いてその疫学的動向を調べるとともに、生活習慣を含めた諸背景因子との関連を解析しました。
 
1990~2010年に大腸内視鏡検査を受けた健常成人62,503人(52.1±9.2歳)について、大腸憩室の頻度・部位の調査・解析を行ないました(図1)。62,503人のうち、大腸憩室は11,771人(18.8%)に認められ、前期(~2000年)が13.0%(29,071人中、3,771人)、後期(2001年~)が23.9%(33,432人中、8,000人)であり、全ての年代・性別において後期の有病率が高くなっていました。一方、左側結腸憩室の頻度が加齢とともに上昇する傾向が明らかに認められましたが、憩室部位の分布に関しては前期・後期で有意な差は認められませんでした(図2)。
 
次に2008~2012年に同検査を受けた3,327人(55.0±9.1歳、男性2,485人、女性842人)について、4つの基本因子(年齢・性・BMI・血圧)、6つの生活習慣関連因子(喫煙・飲酒・成人後体重増加・睡眠不足の自覚・朝食を抜く習慣・就寝前の食事)、6つの血液検査値(ピロリ菌抗体価・T-Chol・LDL-Chol・中性脂肪・Albumin・HbA1c)との関連を解析しました。単変量解析では、年齢・性・BMI・血圧・喫煙・飲酒・成人後体重増加・中性脂肪・HbA1cの9つが大腸憩室と有意な相関を示しました。さらに多変量解析で標準偏回帰係数(β)・オッズ比(OR)を計算すると、相関の強さの順に、①年齢、②男性、③喫煙、④成人後の体重増加、⑤HbA1c、⑥飲酒、⑦中性脂肪、の7因子が有意な正の相関を認めました(図3)。

無症候性大腸憩室の発症には、加齢・男性以外に、喫煙・飲酒・成人後体重増加・HbA1c・中性脂肪などの生活習慣と関連した背景因子が複合的に関与していることが示唆されました。

(山道信毅)

【文献】
Trend and risk factors of diverticulosis in Japan: age, gender, and lifestyle/metabolic-related factors may cooperatively affect on the colorectal diverticula formation.
Yamamichi N, Shimamoto T, et al. 
PLoS One 2015;10:e0123688.
【図1】 解析した21年間の大腸内視鏡検査被検者の概要
【図2】 我が国の無症候性大腸憩室の有病率・部位の推移
【図3】 無症候性大腸憩室と背景因子との相関(多変量解析)
お問い合わせはこちら
ページのTOPへ戻る